Article

開業医の年収はいくら?勤務医・診療科別の比較と手取りの考え方を解説

2026年9月18日 ・ 下地

開業医の年収を調べると医院の利益と院長の給与が混在しています。 本記事では公的統計で相場を確かめ、勤務医・診療科別の違いを整理します。 公開事例と記入式の表を使い自分の家計・返済計画まで点検できます。読了の目安は約14分です。

【結論】開業医の年収は指標を分けて確認する

個人診療所の平均損益差額は約2,649万円です(コロナ関連補助金を除外)。医療法人診療所の常勤院長給与は賞与込みで約2,898万円となります。対象は第25回調査の前年度で2025年3月末までに終了した直近の事業年度です。厚生労働省の損益表院長給与表はどちらも手取りを示すものではありません。まず下表で開設主体を選び、後半のチェック表に毎月の生活費と返済額を書き出しましょう。

開業医の平均年収はいくら?勤務医との違いも確認

開業医の平均年収を考える際は個人の損益と法人院長の給与を分ける必要があります。以下は厚生労働省「第25回医療経済実態調査」の参考比較です。調査の対象期間における前年度は2024年4月〜2025年3月に終了した事業年度を指します。2026年の年収実績ではありません。

対象指標名年額の目安対象期間比較上の注意
個人診療所・全体平均損益差額約2,649万円前年(度)開設者報酬と再投資等の原資を含む
個人診療所・入院診療収益なし平均損益差額約2,628万円前年(度)診療科別グラフと同じ施設区分
医療法人診療所・常勤院長平均給料年額+賞与約2,898万円前年(度)法人の利益は含めない
一般病院・常勤医師平均給料年額+賞与約1,485万円前年(度)病院長とは別の職種行

出典:第25回報告・損益差額の平均値と中央値(冊子311頁)、診療所給与表(331頁)病院給与表(314頁)。個人診療所の集計対象は全体478施設、入院診療収益なし471施設です。個人の損益は新型コロナウイルス感染症関連の補助金を除く値です。

個人診療所と法人診療所で異なる年収の指標

損益差額は診療所の収益から費用を差し引いた指標です。個人開設者本人の報酬はこの調査の給与費に入りません。残った損益には本人の報酬や設備への再投資等の原資が含まれます。厚生労働省の利用上の注意もこの点を明示しています。

法人院長の給与表には創業者と雇われ院長を分けた区分がありません。法人の利益を加えて「院長の年収」とするのも避けましょう。

個人診療所全体の損益中央値は同条件で約2,079万円です。中央値とは値を順に並べたときの中央の値を指します。同じ478施設の平均・中央値にも差があるため平均額だけを自分が開業後に得られる収入とみなすのは早計です。

勤務医と開業医の年収を比べるときの注意点

給与同士でも対象が違うため開業による増収額とは読めません。法人院長は給料年額28,766,158円と賞与212,816円の合計です。病院の常勤医師は13,249,327円と1,596,457円の合計となります。いずれも前掲給与表の年額で月給からの推計ではありません。

診療所は集計2を病院は集計1を採用しています。集計1は介護収益が医業・介護収益の2%未満の施設が対象です。調査の集計方法(冊子6〜7頁)を踏まえた参考比較におさえておきます。

現在の給与と比較する場合、副業収入や勤務時間の条件も書き添えましょう。年収の差額だけでなく休暇や採用業務の負担も判断材料になります。

開業医の診療科別年収を同じ条件で比較する

診療科別の開業医年収は同じ条件の損益で比較しましょう。下のグラフは第25回調査の前年度、個人診療所・集計2の値です。施設区分は「入院診療収益なし」で統一しました。

診療科別の平均を同じ年度・開設主体・施設区分で比べる

以下は1施設当たりの年額で単位は万円です。損益はコロナ関連補助金を除外し原典順に並べています。

平均損益差額(万円/施設・年)
診療科別の平均損益差額横軸は主たる診療科、縦軸は平均損益差額で0から4,000万円。内科:2,459.4万円、237施設。小児科:3,725.5万円、29施設。精神科:1,978.3万円、24施設。外科:2,756.2万円、17施設。整形外科:3,060.8万円、39施設。産婦人科:1,101.5万円、9施設。眼科:3,601.8万円、41施設。耳鼻咽喉科:3,176.8万円、28施設。皮膚科:1,672.0万円、33施設。その他:2,230.6万円、14施設01,0002,0003,0004,0002,459.4内科237施設3,725.5小児科29施設1,978.3精神科24施設2,756.2外科17施設3,060.8整形外科39施設1,101.5産婦人科9施設3,601.8眼科41施設3,176.8耳鼻咽喉科28施設1,672.0皮膚科33施設2,230.6その他14施設
主たる診療科

第25回・前年(度)・個人・集計2・入院診療収益なし。コロナ関連補助金を除く。

出典:第25回報告・主たる診療科別損益(冊子149〜151頁)。原典の千円表示を10で割って換算しました。

一番儲かる診療科を平均だけで選べない理由

グラフでは小児科の平均損益が最も高くても開業の推奨順位にはなりません。産婦人科は9施設、内科は237施設と集計規模も異なります。「入院診療収益なし」には有床施設も含まれます。施設区分表(冊子301頁)に照らし「無床」との言い換えは避けます。

同じ科でも検査や処置、人員配置によって必要な費用は違います。このグラフだけで科別差の原因や自院の所得までは特定できません。標榜科を選択し患者数・設備・採用計画と照合しましょう。

開業医の年収と手取り・家計に残る資金の違い

開業医の年収と生活に使える現金は一致しません。統計上の利益、税務上の所得、実際の入出金を分けて考えていきます。

売上・損益・院長給与・手取りはそれぞれ何を示す?

売上は医院が診療などで得る収益、手取りは税等を差し引いた受取額です。個人と法人では医院から家計へのつながりが異なります。

確認する項目個人開設の診療所法人診療所の院長
医院の損益開設者報酬や再投資等の原資を含む法人の利益
院長給与とは別
税務上の所得税のルールで計算
統計損益とは直結しない
給与収入と給与所得を区別
返済・設備支出事業の支払いと家計への移動を点検法人の支払いと院長家計を分離
生活に使う資金税・保険や事業に残す資金も確認給与からの控除や精算を確認

これは概念の対応表で上から差し引く計算表ではありません。国税庁の事業所得給与所得の説明に基づく整理です。所得控除も控除額と同額の現金支出を意味しません。所得控除の説明を参照し税計算と資金計算を混ぜないようにします。

借入返済と設備投資で使える資金はどう変わる?

返済は元本と利息を分けて確認しましょう。国税庁は事業のための借入利息を必要経費として説明しています。一方、返済元金は利益から賄う資金として別に把握する必要があります。日本政策金融公庫の創業計画書記入例でも利息と返済元金は区別されています。

設備は購入時の支払いと費用になる時期が異なる場合があります。減価償却とは原則として取得費を使用期間に配分する処理です。国税庁の減価償却の説明に沿って現金支出と分けて点検します。

例えば、損益と通帳残高が違うときは返済明細と設備代金の支払日を確認します。同じ支払いを経費と現金支出の両方から重ねて引かないことも大切です。実際の手取りは家族構成や加入保険等でも変わるため個別に税理士へ確認しましょう。

開業医の収入を左右する患者数・単価・費用と改善点

開業医の収入を見直すときは売上・費用・入金を別々に点検します。改善したい数字を先に決めると効果の取り違えを防げます。

患者数・診療単価・診療日数から収入の前提を確認する

外来収益の概算は延べ患者数と患者1人当たりの診療単価で整理できます。1日当たりの患者数を使う場合は診療日数も必要です。注意としてこれは計画用の概算であり院長の年収を求める式ではありません。

次の表は本記事で整理した計画の点検項目です。

要因自院で確かめること読み違えやすい点
患者数延べ受診数、新患・再来、月ごとの変化実患者数と延べ受診数を混ぜない
診療単価保険・自由診療、外来・訪問等の内訳異なる診療構成に同じ単価を使わない
診療日数休診、季節変動、医師の勤務体制繁忙月だけで年間を予測しない
入金診療月、請求月、支払予定月売上と当月の入金を同一視しない

単価を高く置く前に実際に提供する診療内容の対応を確かめましょう。必要な診療と適正な請求が前提です。開業前なら計画の根拠、開業後なら月次実績を欄ごとに揃えます。

人件費・設備費・家賃と診療体制のバランスを見る

費用は削減額だけでなく診療を続けるための体制とセットで判断します。原典の診療科別表の給与費には差がありますがその原因は表からでは分かりません。

採用を増やす計画なら給与に加えて募集費や教育中の負担も書き出しましょう。設備は購入額だけでなく保守費、物件は家賃以外の契約費用も確認します。費用の不足項目を洗い出す考え方は日本政策金融公庫の収支計画チェックにも示されています。

患者数が増えても待ち時間や残業が増えれば勤務体制の見直しが必要です。収益の計画と同じ表に必要な職員数や診療時間を添えておくと判断しやすくなります。

請求漏れ・返戻・未収・事務負担の改善効果を分けて確認する

請求の改善額をそのまま利益や開業医の年収増加額に置き換えてはいけません。社会保険診療報酬支払基金の審査・支払業務の流れを踏まえ次を分けて記録します。

  • 請求漏れ:要件を満たす未請求分を確認し最終的な支払額まで追う。

  • 返戻:確認・修正のため戻された請求。再請求後の回収と遅延期間を追う。

  • 査定:審査による請求内容の修正。再審査も含めた確定額を確認する。

  • 未収:未回収の残高。入金待ちと回収不能を分けて管理する。

  • 事務負担:作業時間と追加の委託費・システム費を分けて記録する。

同じ請求の修正額と回収額を足すと成果を二重に数えてしまいます。時短しても支払う人件費が変わらなければその時間を利益額には換算できません。改善前後の記録がなければまず対象月と確認担当者を決めましょう。

開業後の収入はどう変わる?公開事例で見る経過と苦労

開業後の増収と資金や人員の余裕は別に確認する必要があります。以下は院長・支援者による公開取材の要約です。公表された売上や患者数を紹介しており、院長個人の年収を示す事例ではありません。

医院・診療科開業後の期間公表された数値苦労・対応
いしがみ整形外科クリニック/整形外科等初年度〜4年目。ページ公開日2023年3月8日医院売上6,000万円→4年目2.8億円。費用額は未記載増患しても採用資金に苦労。来院理由と組織運営を見直した
ほーむけあクリニック/外来・入院・訪問診療開業初期〜2年目。ページ公開日2022年5月20日当初は赤字との証言。収支額は未記載2年目に離職が続き、採用前の見学や対話を見直した
なかつぼ眼科/眼科2024年4月開業、取材時約1年半患者数・収支額は未記載取材時も集患に苦労。広告や地域向けセミナーを継続
おひさまクリニック/小児科等2015年開業、約11年後。2026年5月掲載日患者数は当初10数人〜平均30人ほど、取材時平均約100人診療科・診療時間・受入体制を拡大。売上・利益は未記載
渋谷いなもりクリニック/美容皮膚科・美容外科開業2年未満で2025年6月移転。2025年10月記事初期家賃月20万円台、取材時に導入していた自動決済システム月3万円患者増に応じ移転。費用総額・個人所得は未記載

売上や患者数が増えても人員と資金の課題は残る

売上の推移を見るだけでは採用できるかどうかは判断できません。いしがみ整形外科の院長は売上増を公表する一方、採用資金の苦労も語っています。ほーむけあの院長への取材でも開業初期の赤字に加えて離職への対応が語られています。両例を比べると集患計画と人員計画を別々に作るだけでは不十分と考えられます。

自院では増患に合わせて誰をいつ採用するか、支払いがいつ増えるかを確認しましょう。売上が増える月より採用費が先行する計画ならその期間の資金も点検対象です。なお公表例の費用が不明なため利益率や年収の増加率は計算できません。

開業後の期間と改善経緯を踏まえて計画を見直す

開業後の収入を比べる際は経過年数と診療体制も揃えて読みます。約1年半時点のなかつぼ眼科と約11年経過したおひさまでは条件が異なります。後者の増患を特定の広告やサイト改修だけの効果とはいえません。

渋谷いなもりの院長への取材では患者増で手狭になり物件を見直した経緯が語られています。初期家賃だけを自院の開業費用の基準にはしないでください。事例から借りるのは金額の目標より見直す項目と時期です。自院の計画では患者数が伸びない場合と増患で人員が不足する場合を両方考えましょう。

年収だけで開業を決める前に確認したいこと

開業医の年収を自分の判断に使うには月ごとの資料に落とし込むことが大切です。以下は公庫の収支計画の確認項目と前述の事例を基に本記事で整理しました。開業の合否判定表ではありません。

生活費・返済・運転資金を月ごとに書き出す

まず金額と根拠資料が揃っていない欄を見つけましょう。運転資金は給与や家賃など日々の事業支払いに備える資金です。

項目自分の条件確認資料相談先
比較する平均個人/法人、診療科:__本記事の統計条件税理士等
必要生活費月__万円家計の支払記録家族・税理士
元本・利息の返済月__万円/__万円返済予定表借入先
設備更新・採用支払月__、金額__見積書・採用計画業者・採用担当
診療から入金まで入金予定月__支払通知・予定表請求担当
計画未達・休業時継続費用__、資金残高__月次資金表・契約書税理士・借入先

診療報酬は診療と入金の時期が異なります。支払基金の支払予定と担当の国民健康保険団体連合会の支払予定を確認してください。年間の収支が合っていても支払いが集中する月は別に点検します。

診療時間・採用・休業時の負担まで比較する

収入の比較には希望する働き方も添えましょう。診療時間以外に採用・教育・請求確認へ使う時間を見込みます。

休業する場合は家賃など継続する支払いを契約書で確認してください。勤務医としての休暇や保障と比べると年収以外の違いも見えてきます。不足資料が残ったら想定値で埋め切らず、確認先と確認日を欄外に書き添えましょう。

計画と実績の差が出たら最初に患者数・単価・費用のどこが違うかを分けます。患者数が少ない場合と患者数は同じでも費用が高い場合では調べる資料が変わります。さらに利益は計画どおりでも入金が遅れているなら請求と回収の記録を確認します。

このように差のある項目を絞ると相談時に必要な資料も明確になります。平均年収を目標額として置くだけでなく、自院の計画が成立する条件を一つずつ確かめてください。

開業医の年収についてよくある質問

開業医の年収に関する数字は施設の損益か個人の所得かで答えが変わります。

開業医の年収の中央値・年齢別・地域別データはある?

個人診療所の損益中央値は第25回報告の平均値・中央値表で確認できますが院長個人の手取り金額中央値ではありません。今回の調査では現在の開業医個人所得を比べる年齢別・地域別表は確認できませんでした。施設の地域別損益や勤務医の年齢別給与をその代わりに使うことはできません。

開業医で年収5,000万円・1億円は可能?

今回の資料だけでは個人年収としての達成頻度は判断できません。一方、個人診療所の損益が高額な施設は第25回の階級別施設数表にあります。これは医院の損益分布で院長給与の達成率ではありません。公開事例の億単位の売上も経費や返済を考慮した個人年収とは区別が必要です。

開業医はお金持ち?儲かるかは何で変わる?

年収だけで資産や生活の余裕までは判断できません。売上があっても人件費や設備費、返済にも資金が必要です。一方で医院の規模だけで家計に残る額が小さいともいえません。生活の余裕を知りたいなら手取りと家計支出を確認しましょう。経営の余裕を知りたいなら医院の利益と月次資金を分けて見るのが出発点です。

まとめ|開業医の年収は条件を揃えて自分の計画に当てはめる

  • 個人診療所の損益と法人院長の給与を区別する。

  • 診療科別の開業医年収は年度・施設区分・施設数も確認する。

  • 統計損益をそのまま手取りや生活費に置き換えない。

  • 公開事例は売上だけでなく人員や資金の苦労も読む。

  • 自院の生活費・返済・入金予定を月ごとに書き出す。