ベースアップ評価料とは?2026年度改定の変更点・届出手順をわかりやすく解説
2026年5月28日 ・ 下地
ベースアップ評価料は、スタッフの賃上げ原資を国が負担する仕組みです。2026年度改定で点数が約3倍に引き上げられ、対象職員も大幅に拡大されました。本記事では制度の仕組みから届出手順、規模別の年間算定額シミュレーションまで、実務担当者が知るべき情報を網羅的に解説します。読了目安は約10分です。

※注 令和8年6月より改定前の診療報酬明細書です。
【結論】ベースアップ評価料は2026年度から届出必須の制度へ
ベースアップ評価料は、2026年度改定で事実上の「届出必須」制度に変わりました。まだ届出していないなら、今すぐ検討すべき理由は3つあります。
- 点数が約3倍に増額: 初診6点→17点、再診2点→4点。2027年6月にはさらに倍増が予定されている
- 対象が大幅拡大: 正規雇用、非正規雇用関係なく40歳未満の医師、事務職員、受付スタッフまで対象に。届出の経営メリットが拡大した(ほぼ全職種へ拡大)
- 届出しない病院には減算: 入院ベースアップ評価料を届出しない病院は、入院基本料から最大171点/日が減算される
- 届出手続きは大幅に簡素化: 計画書の作成が不要になり、算定回数を調べるだけで届出が可能に
- 2027年6月には点数がさらに倍増: 中規模クリニック(50人/日)なら年間約218万円の算定が見込まれる
診療所(クリニック)の届出率は約4割にとどまっています。多くの同業が未対応の今こそ、早期算定で差をつけるチャンスといえるでしょう。
3分でわかるベースアップ評価料の要点
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 何のため? | スタッフの賃上げ原資を患者が医療費として支払う診療報酬から確保する。経済対策の一環として医療の質の向上や人材確保が目的 |
| 誰が対象? | 医療機関・訪問看護・薬局などの看護師・薬剤師・事務職員・40歳未満の医師など多職種にわたる(経営者・40歳以上の医師は対象外、薬剤師であっても管理薬剤師は対象外) |
| いくら? | 中規模クリニックで年間約67万〜109万円(評価料Iのみ) |
| どう届ける? | 算定回数を調べて様式97に記入し、医療機関の所在地を管轄する地方厚生局都道府県事務所ごとに設定された専用メールアドレスにExcelファイルを提出(届出期間: 5月7日〜5月31日)6月1日必着。都道府県別メールアドレス一覧を確認し、尚、やむを得ない事情がある場合は書面も可 |
| いつから? | 2026年6月1日施行 |
ベースアップ評価料とは?制度の仕組みと目的
ベースアップ評価料とは、医療従事者の賃上げを促進するために設けられた診療報酬の加算項目です。初診・再診時に算定し、得た収入は全額スタッフの賃金改善に充てる仕組みになっています。
制度が作られた背景
令和6年度(2024年度)に新設された背景には、医療従事者の処遇改善があります。全産業で賃上げが進む中、医療分野は他産業に比べて賃金水準が低く、人材流出が課題となっていました。
改定率3.09%のうち1.70%がベースアップ分に充当されており、国の本気度がうかがえます。賃上げ目標は令和8年度+3.2%、令和9年度+3.2%の累積6.4%。看護補助者・事務職員は各年度+5.7%(累積11.4%)と、さらに高い水準を求められています。
制度の基本的な仕組み
ベースアップ評価料の仕組みはシンプルです。
- 初診・再診のたびに患者1人あたり数点〜数十点を加算する
- 加算で得た収入は**100%をスタッフの賃金改善に充当する義務**がある
- 賃金改善実績報告書を年1回(毎年8月)提出し、賃金改善の実績を確認する
算定して得た収入は「色付きの売上」と呼ばれ、設備投資や利益に回すことはできません。ただし、スタッフの賃上げ原資を自己負担せずに済むため、経営上のメリットは大きいといえます。
【2026年度改定】ベースアップ評価料はこう変わった(令和6年度との比較表)
2026年度(令和8年度)改定では、ベースアップ評価料の仕組みが大幅に拡充されました。主要な変更点11項目を中医協答申(中央社会医療協議会)にもとづき比較表で整理します。
主要3項目の比較
令和6年度から令和8年度への主な変更点
対象職員
令和6年度
看護師・薬剤師等のみ
令和8年度
全職員に拡大
(40歳未満の医師・事務職含む)
初診点数
令和6年度
6点
令和8年度
17〜40点
(約3倍)
減算規定
令和6年度
なし
令和8年度
急性期A:
-121点/日
※令和6年度と令和8年度の制度改定における主な変更点(抜粋)
| # | 変更点 | 令和6年度(改定前) | 令和8年度(改定後) |
|---|---|---|---|
| 1 | 対象職員 | 看護師・薬剤師・リハ職等のみ | 大幅拡大: 40歳未満の医師、事務職員なども対象に |
| 2 | 賃上げ目標 | +2.5%(令和6年)、+2.0%(令和7年) | +3.2%(令和8年)、+3.2%(令和9年)で累積6.4% |
| 3 | 初診点数(評価料I) | 6点 | 17点(新規)/ 23点(継続) |
| 4 | 再診点数(評価料I) | 2点 | 4点(新規)/ 6点(継続) |
| 5 | 新規/継続区分 | なし | 新設: 継続賃上げ機関は高い点数を算定可能 |
| 6 | 2段階引上げ | なし | 新設: 令和8年6月〜と令和9年6月〜の2段階 |
| 7 | 評価料(II) | 1〜8段階 | 1〜12区分(令和9年6月以降は1〜24区分) |
| 8 | 減算規定 | なし | 新設: 急性期A: -121点/日 等 |
| 9 | 繰り越し規定 | あり | 廃止: 改善額の2/3以上をベースアップ等で確実に改善 |
| 10 | 届出手続き | 計画書提出が必要 | 簡素化: 賃金改善計画書不要、3書類に集約 |
| 11 | 物価対応料 | なし | 新設: 初診2点・再診2点(令和9年6月以降は初診4点・再診4点) |
対象職員が大幅拡大【40歳未満の医師・事務職員も対象に】
2026年度改定で最も大きな変更は、対象職員の拡大です。
改定前は看護師・薬剤師・リハビリ職など一部の医療従事者に限られていました。改定後は、40歳未満の医師・歯科医師と事務職員(受付・清掃含む)が新たに対象に加わっています。
対象外となるのは以下の方々です:
- 40歳以上の医師・歯科医師・管理薬剤師等
- 経営者(開設者)・法人役員
- 業務委託で勤務する者
なお、40歳未満の医師・歯科医師は算定基礎額の計算方式が異なる点に注意してください。他の職員が月額賃金総額をもとに計算するのに対し、医師は「職員数 x 定額係数」で計算します。定額係数は常勤27,021円/人、令和9年度には54,042円/人に倍増する予定です。
派遣職員は条件付きで対象に含められますが、業務委託職員は対象外と、令和8年3月23日付の疑義解釈で明確化されました。
点数が約3〜4倍に引上げ
初診の点数は6点→17点(新規施設)と約3倍に。再診は2点→4点と2倍に増額されました。
令和6・7年度から継続して賃上げを行っている施設は「継続施設」に認定されます。継続施設なら初診23点・再診6点と、新規より高い点数を算定可能。
| 区分 | 改定前 | 令和8年6月〜(新規) | 令和8年6月〜(継続) | 令和9年6月〜(新規) | 令和9年6月〜(継続) |
|---|---|---|---|---|---|
| 初診 | 6点 | 17点 | 23点 | 34点 | 40点 |
| 再診 | 2点 | 4点 | 6点 | 8点 | 10点 |
2027年6月以降は所定点数の200%が加算される方式に移行します。継続施設なら初診40点、再診10点まで引き上げられる見込みです。
届出しない病院への減算規定が新設
2026年度改定の新たなペナルティとして、入院ベースアップ評価料を届出しない病院への減算規定が設けられました。
| 入院基本料等の種別 | 減算点数(1日につき) |
|---|---|
| 急性期A一般入院料等 | -121点 |
| 救命救急入院料等 | -171点 |
| 地域一般入院基本料等 | -65〜69点 |
| 療養病棟入院基本料等 | -42点 |
診療所は現時点で減算の対象外です。ただし病院の入院ベースアップ評価料届出率は99.7%に達しており、業界全体で「届出は当然」という認識が広がりつつあるといえるでしょう。
未届出でも賃上げ済みなら救済措置あり(様式98)
令和8年3月までにベースアップ評価料を未届出でも、救済の道が残されています。令和6年3月以降に2.3%以上の賃上げを自主実施していた施設は、様式98を提出すれば継続施設と同等の高い点数を算定可能です。
診療所の届出率が約4割と低い中、「届出はしていなかったが賃上げはしていた」という施設にとって、この救済措置は見逃せません。2群合算方式で柔軟に判定されるため、該当する可能性がある場合は地方厚生局に確認してみてください。
その他の変更点
- 外来・在宅物価対応料の新設: 初診2点・再診2点・訪問3点(令和9年6月以降は各2倍)。令和8・令和9年度限定で、ベースアップ評価料と別途算定が可能
- 夜勤手当への充当が解禁: 有床診療所では賃金改善費の充当先に夜勤手当が追加された
- 電子申請に対応: 324施設基準がオンラインで届出可能に
算定点数一覧【外来・在宅ベースアップ評価料(I)(II)・入院ベースアップ評価料】
ベースアップ評価料は「外来・在宅(I)」「外来・在宅(II)」「入院」の3種類。クリニックが主に関係するのは評価料(I)です。
外来・在宅ベースアップ評価料(I)の点数
評価料(I)は全医療機関が対象の基本的な加算で、初診・再診・訪問診療の各場面において患者1人につき1日1回算定できます。
| 区分 | 令和8年6月〜(新規) | 令和8年6月〜(継続) | 令和9年6月〜(新規) | 令和9年6月〜(継続) |
|---|---|---|---|---|
| 初診 | 17点 | 23点 | 34点 | 40点 |
| 再診 | 4点 | 6点 | 8点 | 10点 |
| 訪問診療(同一建物以外) | 79点 | 107点 | 158点 | 186点 |
| 訪問診療(その他) | 19点 | 26点 | 38点 | 45点 |
「新規」と「継続」の違い:
「継続施設」に認定されるには、以下の条件をすべて満たさなければなりません。
- 令和8年3月31日時点でベースアップ評価料の届出済みであること
- 令和8年度: 一般職員は5.5%以上、看護補助者・事務職員は8%以上のベースアップ実績(令和6年3月比)
- 令和9年度: 一般職員は8.7%以上、看護補助者・事務職員は13.7%以上
外来・在宅ベースアップ評価料(II)とは
評価料(II)は、評価料(I)を算定済みの医療機関がさらに上乗せして賃金改善する場合に加算できる区分です。
改定前は「総給与費の1.2%に相当する賃金改善」が必要でしたが、この要件は廃止されました。改定後は「適切な賃金改善の50%」に変更され、要件が大幅に緩和されています。
段階数は8→12区分に拡大(令和9年6月以降は24段階)。算定基礎額の計算方式は職種によって異なります。医師以外は「月額賃金総額 x 賃上げ率 x 1.29」、40歳未満医師は「職員数 x 定額係数」で計算し、合算します(詳細は厚労省の計算支援ツールを参照)。
1.29係数とは: 基本給を1万円上げると、社会保険料の事業主負担(約16.5%)と賞与連動分を含めて実質コストが約1.29万円になることを反映した包括係数です。法定福利費16.5%とは別の概念なので混同に注意してください。
多くの外来クリニックでは評価料(I)のみで対応可能です。評価料(II)の算定は、大規模な賃金改善を計画している施設が検討すればよいでしょう。
入院ベースアップ評価料の概要
入院ベースアップ評価料は、入院機能を持つ医療機関向けの区分です。段階数は165→250区分に拡大し、令和9年6月以降は500区分に。無床診療所には直接関係しませんが、有床診療所は算定対象となるため確認しておきましょう。
令和9年度(2027年6月)の再届出について
令和9年6月からの点数倍増に際し、再届出が必要かどうかは算定区分によって異なります。
- 評価料(I)のみの施設: 再届出は不要。自動的に倍増後の点数が適用される
- 評価料(II)または入院ベースアップ評価料を算定する施設: 区分拡大のため再届出が必要
【規模別シミュレーション】あなたのクリニックはいくら算定できる?
ベースアップ評価料を算定すると、実際にいくら収入が増えるのか。小規模(30人/日)・中規模(50人/日)・大規模(80人/日)の3パターンで試算しました。
シミュレーションの前提条件
| パラメータ | 値 | 根拠 |
|---|---|---|
| 診療科 | 内科 | 最も一般的な診療科 |
| 初診率 | 12% | 厚労省 医療施設調査 |
| 再診率 | 88% | 同上 |
| 月間診療日数 | 23日 | 週5.5日稼働(土曜午前含む) |
| 年間診療日数 | 270日 | 年末年始等を考慮 |
| 適用点数 | 令和8年6月〜令和9年5月 | 新規・継続の両パターンを試算 |
前提条件は福祉医療機構(WAM)の経営分析データと厚労省統計をもとに設定しています。自院の実績が異なる場合は、近いパターンを参考にしてください。
規模別の年間算定額
規模別シミュレーション
年間算定額(万円)
小規模(30人/日)
中規模(50人/日)
大規模(80人/日)
| クリニック規模 | 新規施設 | 継続施設 |
|---|---|---|
| 小規模(30人/日) | 45万円 | 65万円 |
| 中規模(50人/日) | 75万円 | 109万円 |
| 大規模(80人/日) | 120万円 | 174万円 |
評価料(I)のみ。令和8年6月〜令和9年5月の点数で試算。
診療所の届出率が約4割と低いため、読者の多くは「新規施設」に該当する可能性が高いでしょう。ただし、前述の様式98による救済措置を使えば、継続施設の点数を算定できる場合もあります。
令和9年6月以降は約2倍に増加します。継続施設の中規模クリニックなら年間約218万円、大規模なら約348万円の算定額となります。
概算シミュレーター
外来・在宅ベースアップ評価料(I)の年間算定額
年間算定額(概算)
約108.5万円
評価料(I)のみの概算です。実際の算定額は診療日数等により異なります。
※上記は評価料(I)のみの試算です。物価対応料(初診2点・再診2点)も別途算定可能です。
訪問診療を行う場合の追加算定
訪問診療を行っている場合、評価料(I)の訪問診療加算が別途算定可能です。
| 規模 | 月間訪問件数 | 追加年間算定額(継続) |
|---|---|---|
| 小規模 | 30件 | 約39万円 |
| 中規模 | 60件 | 約77万円 |
| 大規模 | 100件 | 約128万円 |
※訪問先が同一建物以外の場合。継続施設の107点で試算。
届出の流れ・必要書類【2025年の簡素化後の手順】
2025年1月の日本医師会・厚労省協議による簡素化に加え、2026年度改定で賃金改善計画書も廃止に。届出手続きは大幅にシンプルになりました。
簡素化された届出手順(4ステップ)
| ステップ | 内容 | 目安時間 |
|---|---|---|
| 1 | 直近1か月の初・再診料等の算定回数を調べる | 30分 |
| 2 | 様式97に記入する | 1〜2時間 |
| 3 | 管轄の地方厚生局に提出する(電子申請も可能) | 即日 |
| 4 | 翌月から算定開始 | — |
届出期間は令和8年5月7日〜6月1日必着。6月1日の施行日から算定を開始するには、この期間内に届出を完了させてください。対象職員数の確認等の準備は4月中に済ませておくと安心です。
厚労省の公式説明動画ページで、届出手順の動画解説と計算支援ツールを確認できます。
届出書の主要記入項目と注意点
主な記入項目は以下の4点。
- 直近1か月間の初・再診料等の算定回数
- 給与総額(基本給+手当+賞与+法定福利費の事業主負担分)
- 基本給等総額(基本給+毎月の手当のみ)
- 賃金改善見込み額
記入時に最も間違いやすいのは、定期昇給をベースアップに含めてしまうことです。厚労省の公式資料によると、ベースアップとは賃金表の改定等により同じ年齢・同じ役職の者の給与水準を底上げすることを指します。勤続年数の増加に伴う昇給(定期昇給)は含められません。
賃金用語の使い分けにも注意が必要です。
| 用語 | 定義 | 使う場面 |
|---|---|---|
| 基本給等 | 基本給+毎月の手当 | 賃金改善の充当先 |
| 月額賃金 | 基本給等+賞与の月割り | 算定基礎額の計算 |
| 賃金 | 月額賃金+法定福利費 | 総コストの把握 |
基本給に組み込むか手当として支給するかも重要な判断ポイント。将来の制度変更リスクを考慮すると、手当形式での支給も検討に値します。
法定福利費の按分計算【16.5%の内訳】
ベースアップ評価料の届出では、賃金改善見込み額に法定福利費の事業主負担分(約16.5%)を上乗せ可能。内訳は以下のとおりです。
| 保険種目 | 令和8年度事業主負担 |
|---|---|
| 健康保険(協会けんぽ) | 約4.95% |
| 介護保険 | 0.81% |
| 厚生年金保険 | 9.15% |
| 雇用保険 | 0.85% |
| 労災保険(医療業) | 0.3% |
| 子ども・子育て拠出金 | 0.36% |
| 子ども・子育て支援金(令和8年新設) | 0.115%(統一料率0.23%の労使折半) |
| 合計 | 約16.5% |
計算式は「賃金改善見込み額 x 1.165 = 法定福利費込みの改善額」。各保険料率は年度・地域により変動するため、上記は目安です。
注意: 1.29係数との違い
届出書類では法定福利費16.5%を使い、算定基礎額の計算では1.29係数を使います。1.29には法定福利費に加えて賞与連動分(約12.5%)も含まれるため、16.5%より大きな値です。この2つは別の概念なので、混同しないよう注意してください。
届出後の年間スケジュール
| 時期 | イベント |
|---|---|
| 令和8年5月7日〜5月31日 | 届出書提出(様式97、地方厚生局へ) |
| 令和8年6月1日 | 算定開始 |
| 令和8年8月 | 中間報告書提出(算定収入額、対象職種ごとの常勤換算数等) |
| 令和9年8月 | 実績報告書提出(賃上げ実績の最終確認) |
区分変更の届出は、四半期ごとの再計算が不要になりました。対象職員数または算定回数が1割以上変動した場合のみ届出すれば問題ありません。
届出後の届出手順や算定の詳細は厚労省の令和8年度賃上げ対応資料で解説されています。
ベースアップ評価料のメリット・デメリット
メリット3つ
1. スタッフの賃上げ原資を確保できる
ベースアップ評価料は「国が賃上げ原資を出してくれる」仕組みです。算定しなければ、賃上げ分を自費で負担しなければなりません。中規模クリニックなら年間67万〜109万円の原資を診療報酬から確保できます。
2. 人材確保・定着の競争力が上がる
病院では外来・在宅評価料(I)の届出率が90.4%、入院評価料は99.7%に達しています。他院が賃上げする中、未対応のまま放置すると採用難や離職率の上昇につながりかねません。
3. 届出手続きが大幅に簡素化された
計画書の作成は不要になり、算定回数を調べるだけで届出可能に。個々の職員の賃金改善見込み額や人数の記載も不要になりました。
デメリット・注意点3つ
1. 算定収入は100%賃金改善に充当義務がある
得た収入は全額スタッフの賃金に回す必要があり、設備投資や利益には使えません。実績報告を怠ると返還義務が生じる可能性もあります。
2. 67.9%の施設が「賃上げ分を賄えていない」
本郷メディカルの独自調査(57施設)では、67.9%の施設が「評価料の収入だけでは賃上げ分を賄えていない」と回答。不足分は自院の経営努力で補填が必要なため、算定額だけで賃上げ全体をカバーできるとは限りません。対策としては賃上げ促進税制の併用(後述のFAQ参照)や、手当形式での段階的な引き上げが有効です。
3. 窓口負担がわずかに増える
ベースアップ評価料の算定に伴い、患者の窓口負担もわずかに増えます。初診17点の場合、3割負担で約50円の増加。金額自体は小さいものの、患者への説明が必要になる場面があるかもしれません。
届出しない場合のリスク【2026年度から減算規定が新設】
入院機能を持つ医療機関にとって、入院ベースアップ評価料の未届出は直接的な減算につながります。急性期A一般入院料の場合、1日あたり-121点。100床規模の病院であれば年間数千万円の減収になる計算です。
診療所には減算規定はないものの、以下のリスクが想定されるでしょう。
- 人材流出リスク: 他院が賃上げする中、未対応だと看護師・事務スタッフの転職が増える
- 採用コスト: 看護師1人の採用コストは50〜100万円程度とされ、離職による損失は大きい
- 将来の減算リスク: 病院から始まった減算規定が、将来的に診療所に拡大される可能性はゼロではない
よくある質問(FAQ)
Q. ベースアップ評価料(I)と(II)の違いは?
評価料(I)は全医療機関が対象の基本的な加算です。評価料(II)は、(I)を算定している医療機関がさらに上乗せして賃金改善する場合に加算する区分になります。改定前の「総給与費の1.2%」要件は廃止され、「適切な賃金改善の50%」に変更されました。多くの外来クリニックでは(I)のみで対応可能です。
Q. ベースアップは全職員一律ですか?
経営者や院長が職種間・個人間で傾斜配分することが認められています。ただし「基本給」または「毎月支払われる手当」に充当する必要があり、他の手当を減額して相殺することはできません。配分基準を事前に明らかにし、全職員に周知することがトラブル防止の鍵となります。
Q. ベースアップ評価料は1日1回ですか?
はい。基本的に外来・在宅ベースアップ評価料は「1日につき」の算定です。同日に初診と再診が発生しても、算定は1回のみとなります。ただし、複数科ある医療機関等で受診科が異なり、傷病名が異なる場合はそれぞれの科で算定可能です。なお、外来患者が同日に入院した場合も、外来・在宅評価料(I)と入院評価料を併算定可能です。
Q. ベースアップ評価料に年齢制限はありますか?
看護師・薬剤師・事務職員等には年齢制限はありません。**医師・歯科医師のみ40歳未満に限定**されています。40歳以上の医師は対象外です。令和6年度では医師・歯科医師は年齢を問わず全員が対象外でしたが、令和8年度改定で40歳未満に限り新たに対象に加わりました。年齢は算定時点で判定します。なお、40歳未満であっても経営者(開設者)・法人役員は対象外です。
Q. 届出はいつから可能ですか?2026年度の施行スケジュールは?
2026年6月1日施行。届出期間は令和8年5月7日〜5月31日必着です。届出完了後、6月1日から算定を開始できます。対象職員数の確認や算定回数の集計は4月中に済ませておくとスムーズでしょう。届出様式(Excel)は厚労省サイトからダウンロード可能です。
Q. 賃上げ促進税制と併用できますか?
併用可能です。ベースアップ評価料(厚労省/診療報酬)と賃上げ促進税制(経産省/税制)は所管が異なります。「診療報酬加算+税額控除」のダブルメリットを得られるでしょう。中小企業者等の控除率は最大35%で、赤字でも5年間の繰越控除が可能。ただし医療機関の活用率は約29%にとどまっています。顧問税理士への相談をお勧めします。
まとめ
ベースアップ評価料について、2026年度改定のポイントを振り返ります。
- 点数は約3倍に増額(初診6点→17点)。2027年6月にはさらに倍増が予定されている
- 対象が大幅拡大。40歳未満の医師・歯科医師、事務職員、受付スタッフも対象にほぼ全職員へ拡大へ
- 届出手続きは大幅に簡素化。計画書作成は不要、直近1~2か月程度の算定回数を調べるだけで届出可能
- 病院には減算規定が新設。入院ベースアップ評価料未届出なら最大-171点/日のペナルティ
- 中規模クリニック(50人/日)で年間約67万〜109万円。令和9年6月以降は約2倍に
- 診療所の届出率は約4割。今から届出すれば、多くの同業に先んじて賃上げ原資を確保できる
- 賃上げ促進税制と併用可能。税額控除とのダブルメリットも活用を
2026年度改定により、ベースアップ評価料は「届出しない理由がほぼなくなった」制度に変わっています。まずは厚労省の計算支援ツールで自院の算定額を確認し、5月の届出に向けた準備を始めてみてください。
※本記事の情報は2026年4月時点のものです。算定要件や届出手続きの詳細は、管轄の地方厚生局にご確認ください。